a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
「瀧本さん、家に帰る所でしょ? 私のことはいいからもう戻って」
それから手に持っていた焼き菓子のことを思い出し周吾に手渡す。
「教えてもらったお店に行ってきたの。すごく素敵だった、ありがとう……。これはそのお礼というか、お土産」
「もしかしてチョコレートケーキ?」
「そう。私は別のケーキを買ったんだけど、すごく美味しかったよ」
周吾は嬉しそうに微笑む。それから何やら考え込みながら、貴弘が消えていった市街の方へ目をやった。
「あいつ、きっとまだいるだろうな……。今から那津さんと出かけたりして、那津さんに何かあったら大変だし……」
「……そうね。でも瀧本さん、勤務明けだし、とりあえず家に戻って休んで。会うのはそれからでもいいし」
そう言った瞬間、那津の体は周吾の強い腕に抱きしめられていた。
「那津さんに何かあったらと思うと、休んでなんかいられないよ」
那津はドキドキした。なんて厚い胸板、力強い腕、男らしくて優しい香り……。どうしよう……息が苦しい。
「で、でも! とりあえず休まなきゃ! またお昼過ぎから出かけない?」
「……心配だから、送り迎えは俺にさせてくれる?」
「……わかった」
「よし、じゃあホテルまで送らせて」
那津が頷くと、周吾は彼女の手をとって歩き始めた。