a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
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外に出るのが怖かったので、持ってきた本を読んで時間を持て余す。
それも終えてやることがなくなり、チェックインをした時にもらったパンフレットに目を通す。
するとホテルそばに漁港があるのを見つける。直売のお店もあると書かれており、那津は興味を惹かれた。
あれからだいぶ時間が経ったし、もし貴弘が来ていたとしても、諦めて帰ったんじゃないかしら。
那津はカバンを持つと部屋のドアを開け、廊下に誰もいないことを確認してから非常階段に向かう。エレベーターに乗ればロビーに降りる事になるため、万全を期すために非常階段を選んだ。
一階までゆっくりと降りて行き、ロビーを覗いた那津はギョッとする。そこにはソファに座ってスマホを見ている貴弘がいたのだ。
やっぱりいたんだ……でも先程の会話で言いたいことは言ったし、こちらから話すことは何もなかった。
きっと会って話せば嫌な思いをする。それが目に見えているからこそ、会いたくなかった。だからここに逃げてきたのに、どうしてこうなってしまうんだろう。
階段横の扉を開けて、裏庭へ抜ける。小さな噴水の周りに花が植えられた庭園を、何度も振り返りながら進んでいく。誰も来ないとわかると、ようやく立ち止まって深呼吸をした。
バレていないはず……そう祈りながら海岸線の道路へ出ると、漁港へと歩き出した。