a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
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借りていたホテルの部屋に戻った那津は、二段ベッドの下段に倒れ込んだ。木の温もり溢れる部屋には、優しい木の香りが広がる。
昨日相部屋になった人は、朝にチェックアウトしていった。今日また誰かが入るかもしれないが、今はガランとした静かな部屋にただ一人。
寝返りを打ちながら、さっきの出来事を思い出す。
あの人は何だったんだろう……。急に声をかけてくるし、ちょっと軽い感じがあまり好きじゃない……。そうよ、いきなり声かけるって、女慣れしてるみたいで嫌。
海に行くのをやめようか。でも部屋にいるのとは違って、波の音を聞いていると何も考えずにいられた。
有休はたった一週間しかない……。いつまでも逃げていられないのもわかってる。この一週間で気持ちを切り替えないと。
それにあの人がいるとは限らない。そのために海に行かないという選択肢はなかった。