a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
「傷付いたのって、仕事? 恋愛?」

 そう聞かれ、那津は黙り込んだ。少しだけよ……ちょっと話を聞いてもらえたら、確かにスッキリするかもしれないでしょ。

「……恋愛。でも仕事も絡んでる」

 那津が話し始めたのが嬉しかったのか、周吾は少しだけ口角を上げた。

「ってことは社内恋愛だ」
「……」
「付き合ってた人?」
「……」
「もしかしてフラれたとか?」
「……別れ話は私からした。拒否されたけど……」
「なんで別れようって思ったわけ?」

 そこまで話してハッとする。初対面の人にここまで話していることに戸惑う。

「……言わない。サンドイッチ、ご馳走様でした」
「あっ、ねぇ! 俺今日非番なんだけど、良かったらこの町を案内しようか。オススメのお店とかさ」

 那津は少しだけ『楽しそう』と思ってしまった自分に戸惑い、躊躇して口を閉ざす。

「それともやっぱり海を見ていたい?」

 周吾の微笑みは優しかった。だからこそ興味を惹かれてしまった。

 この町に長く留まるつもりはない。だってちゃんと自分の家があるから。でもせっかく来た場所だし、見て回りたい気持ちもあった。

「じゃあ……案内してもらおうかな……」

 彼の顔が嬉しそうに輝くのがわかった。

「行く前に名前聞いてもいい?」
「梶原那津……」
「那津さんか。よろしくね。ちなみに年齢とか聞いてもいい?」
「……あまり嬉しくない質問だけど……二十七才」
「俺より一つ年上? 可愛いから年下かと思ってた」

 それは那津も同じで、たくましい体と大らかな雰囲気から、てっきり年上だと思っていたのだ。

 可愛いっていうのは余計だけど、意外と話しやすい人かもしれない……。

「よし、じゃあ食べたら出発だ」

 那津は頷くと、サンドイッチを食べるスピードを上げた。
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