『 最後から、始まる。 』~卒業~ きみと過ごす残り1ヶ月
コンビニで買ったペットボトルを飲みながら
杉山と公園に向かった
杉山のウインドブレーカーが擦れる音に
私の胸の音が重なる
「会いたかったの、オレだけ?」
「ん?私も会いたかったよ
でも、一昨日も会ったよね」
私が家のお遣いでスーパーにいるって言ったら
走って来て荷物持ってくれた
「でも、昨日は会ってない」
「うん
でも、1時間近く電話したよね」
「うん
もっとしたかった
て言うか、昨日も会いたかった」
「杉山、大丈夫?
もぉすぐ会えなくなるんだよ」
「うん、だから会えるうちに会いたい」
こうして何もないのに会うことも
できなくなる
夕日が落ちて
外灯がついた公園を
杉山と歩いた
「私、毎日、電話するね」
「お願いします」
「ずっと高校生だったら
毎日嫌でも一緒だったのにね」
「毎日、嫌だったの?」
「んーん…嫌じゃないよ
毎日、杉山を見るために学校行ってたかも…
席替えの時は杉山の位置確認して
教室からグラウンドで走る杉山見て
音楽室で先生の伴奏聴く杉山を
ドキドキしながら見てた」
「あのさ、浅倉…
言ってもいい?」
「なに?
キモいって言わなくてもわかってるからね」
「好き…」
「なに、急に…」
「急じゃないよ
ずっと、好きだったよ
これからも好きなつもりだし…」
耳が熱くてくすぐったい
「ずっと…って?
先生のこと、好きだったクセに」
「好きだったよ」
それは否定しないんだ
やっぱり
少し妬ける
「でも…
先生がダメだったから浅倉なんじゃなくて
先生を好きだったから浅倉なんだ
…
うまく言えないけど
先生がきっかけだったと思う」
先生を好きだった杉山を好きになった私
なんとなく
杉山が言いたいことわかる
「私も先生のこと好きだから、光栄です
先生、元気かな?
赤ちゃん生まれて幸せかな?」
「幸せなんじゃない?」
「杉山、まだ先生のこと好き?」
「…なんて答えたらいい?」
「好きなんでしょ
いいよ、別に…」
「うん…
すげー好きだったから
まだ嫌いにはなれない
…
何も始まらないまま終わったし…」
「別に嫌いにならなくていんじゃない?
今もし先生が
私、清水先生と別れたから…って
杉山の前に現れたら、どーする?」
「赤ちゃん抱いて?
杉山くんももぉ生徒じゃないし…って?」
「うん
実は私も杉山くんのこと好きだったの…って
現れたら、何か始まる?」
「んー…そーだな…
そしたら迷わず…」
迷わず
杉山は先生を抱きしめそう
「オレ今、すげー好きな子いるんで…
幸せなんですよね
残念でしたね、先生
あと10年遅く生まれてたら
付き合ってあげてもよかったんだけどな…
先生も幸せにね
ありがとう、先生
…って、ふってやる
…
何も始まらないよ」
何も始まらなかった
始まらなかったから
きっと綺麗な思い出のまま
杉山の心に残るんだろうな…
「カッコつけてるね、杉山」
「そりゃーね…
好きな子の前だからカッコつけさせてよ
…
好きだよ…浅倉
ホントに好きだから…
…
あ…今更だけど…
浅倉、オレと付き合ってください」
「ホントに今更だね
…
じゃあ…
今日から?よろしくお願いします」
「やべー…すげー好き
大切にするね、浅倉」
「うん」