追放された私は、悲劇の聖女に転生したらしいです
 ナタリアの言うように、ここに留まっていれば、王子の怒りに触れ処刑される可能性がある。
 無い知恵を一所懸命絞って考えると、答えは一択しかなかった。どこにも行く当てはないけれど、思い切ってここから去るのが賢明だ。自由になるチャンスは今しかない。どうぞ出て行って下さいと言っているのだから、お言葉に甘えるしかないでしょ?
 でも、その前に、下準備をしておかないと。外の世界には、どんな困難が待ち受けているかわからない。
 私は、寝台の箪笥をもう一度開け、二重底になった板を持ち上げた。そこに隠してあるものは、亡くなった母親の形見の宝石である。
 ブラックスピネルが付いた髪飾りと、ムーンストーンのペンダント。
 他の形見の宝石は、姉にほとんど持っていかれてしまっていて、残ったのはこのふたつだけ。でも、最後まで母が身に付けていたのはこのふたつだと侍女から聞いていたので、全然悔しくなかった。
 私は、髪飾りとペンダントを取り出すと、両手に握り締めた。
 そして、自身の中に魔力を集めるように息を吸い、頭の中で創造する。
 創り出すのは、二匹の守護獣。私の旅の仲間になってもらうためだ。
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