追放された私は、悲劇の聖女に転生したらしいです
 大通りは一気に興奮の坩堝と化した。一際背が高く、細身で、ミステリアスなオッドアイの男性なんて、私でも「一目見せろ」と叫ぶかもしれない。ディオはあれよあれよという間に女性たちに取り囲まれ、私はぐいぐい外に押されて行く。繋いだ手も、もう離れる寸前……だと思った時、すごい力で引き戻され、なにかにギュッと包まれた。

「悪いけど、妻がいるんだ。どいてくれないか」

 頭上から声がした。ディオの声だというのはわかったけど、その内容がおかしい。

「あらまあ、そうなの残念」

「羨ましいわ」

「もう! つまらないわ! でも、奥さんに飽きたら遊びましょうね」

 背後でたくさんの女性のため息や嫉妬、羨望の声が聞こえ、やがて止んだ。
 ざわざわとした喧騒が戻り、辺りはいつも通りの様相に戻ったようだ。が……ただひとり、元に戻れない人間がいた。もちろん私だ!
 天下の往来で男性と抱き合うなんて、恥ずかしくて顔を上げられないというのに、ディオは全く離す気配がない。せめてもの救いは、抱きしめられていて周りが見えない、ということだけだ。

「ディオ……そろそろ離してもらえませんか」
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