追放された私は、悲劇の聖女に転生したらしいです
「いや、駄目だ。念には念を入れて、もう少し……と言いたいところだが、店が閉まっては困る。残念だけど急ごうか」

 ディオはすっと私を離すと、また手を取って歩き出した。
 よかった、と思うと同時に、熱を持っていた体の前半分が冷えて行くのを、なんだかさみしいとも思ってしまう。
 考えてみると、誰かにぎゅっと抱きしめられることなんてなかった。
 大切に、傷つけないように、優しく。
 ディオの腕の中は暖かくて、気持ちよくて……って、ちょっと待って! 何考えているの? 私はタネと苗の買い付けに来たのであって、イチャイチャしに来たのではないっ!
 湧いてくる妄想をかき消そうとぶんっと頭を振る。
 すると、突然ディオが立ち止まり言った。

「たぶん、ここだな」

「つ、着きました?」

 努めて冷静に言いつつ見ると、そこには小さな露店があった。たくさん置かれた籐の籠の中には、何かしらのタネが入っている。完売したのか、既に空になった籠もあった。

「いらっしゃい。なにかご入用ですか?」

 店主らしき男が言った。

「タネと苗をいくつか……ララ、なにがいいか見てもらえるか?」

「はい」
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