追放された私は、悲劇の聖女に転生したらしいです
 と言って籠を覗き込んで見たけど、さっぱりわからない。野菜の専門家じゃあるまいし、一目見てなんのタネや苗かなんてわかるわけがないのだ。ここは、店主に聞きながら、なにがいいかを考えよう。

「これは、なんのタネですか? たくさん残っているみたいですけど」

「ソラルムだよ。タネから育てるのは難しいから、みんな敬遠してね。余るんだよ」

「ソラルム? それってどんなものですか?」

「おっと、知らなかったのかい。えーと……あ、これ、これだよ、はい」

 店主は何やらごそごそと屈むと、あるものを手渡してきた。
 直径は約三センチ。コロンとした丸いフォルムに、情熱的な赤いボディ。それは、私がよく知っている美味しい野菜「トマト」。厳密に言うと「ミニトマト」だった。
 この世界にトマト、いやソラルムがあるとは幸運である。水耕栽培に適しているミニトマトなら、グリーランドでも育ちそうだ。

「店主さん、これ、頂きます」

「いいよ。苗はすぐ売れちまうんだけど、タネはさっぱりでね。どうしようかと思っていたところさ。格安で譲るよ」

「ありがとうございます! あの、それから、葉物の苗はありますか?」
< 130 / 275 >

この作品をシェア

pagetop