追放された私は、悲劇の聖女に転生したらしいです
 するとディオは胸ポケットに入れていた革袋を取り出し、金剛石をつまみ出した。

「店主、これと交換ではどうだろう。三十ルピ以上の価値のある宝石だ」

「へえー、こりゃまた、綺麗な宝石だ。だが、ワシは石の価値はわからんのでな。できたら、金がいいのだが」

 店主は申し訳なさそうに言った。いや、申し訳ないのはこちらの方です。宝石と交換で行けるよね!とディオと盛り上がったけれど、常識で考えていきなり石を出して交換してくれなんてあり得ない。
 私もディオも引きこもり生活が長かったからか、ちょっと常識からズレたところがあるようだ。
 ディオと私はどちらともなく顔を見合わせた。彼の目は「どうする?」と語っている。
 仕方ない、今から帰って、ゼクスにお金を貰って来るか。幸い時間はあるから……あ、れ?
 ふと目を止めたのは、裏に置いてあったボロボロの荷車である。持ち手は腐りかけ車輪は歪み、到底荷物を運ぶという使命を全う出来ているとは思えない。これだけ使い込まれているということは、毎日店から家まで商品を引いて帰っているのだろう。つまり荷車は必要不可欠なもの。これは、交渉材料になるかもしれない。
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