追放された私は、悲劇の聖女に転生したらしいです
 四角い黒い塊のカバーを外し、一気に広げる。そして、きちんと形を整え、引手をぐっと上げた。
 完成したのは場所を取らない折り畳み式のキャリーワゴン、丈夫で軽い最新モデルである。

「おいおい……こいつは驚きだ! 小さいものが大きくなったぞ」

 大仰な声を出しながら、ワゴンを触りまくる店主は、興奮したまま私に尋ねた。

「布で出来ているようだが、破れたりはしないのか?」

「PVC加工されているので、破れ汚れ、更には水にも強くなっています。ですから店主さんの仕事道具を運ぶのに最適かと思いますよ。実際に荷物を入れて使ってみますか?」

「ぴーぶいしー……? なんだかわからないけど、使ってみるよ!」

子供のように目を輝かせた店主とともに、裏通りに移動する。ディオがキャリーワゴンを裏通りに置き、その辺の仕事道具を入れると、店主は勢いよく取手を引いた。

「うおおお、軽い軽い! ぐいぐい進むよ!」

 楽しそうな店主は、裏通りを行ったり来たりと忙しい。よほど気にいったのか、もう止まる気配すらない。大声を出さないと聞こえないくらい夢中である。

「どうですかぁ? 交換してくれますかぁ?」
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