かぐわしい夜窓
「失礼いたします、巫女さま。夜の見回りに参りました。お変わりありませんか」

「いつもありがとうございます、変わりありません」

「それはようございました」


歌まもりは、のほほんと控えているだけのわたくしと違って、大変な仕事である。


どこにでも付き添ってくれるし、毎晩真っ暗ななかを燭台片手に見回りをしてくれるし、わたくしのおつとめの間には鍛錬をしている。

馬車の乗り降りや階段の上り下りには手を貸してくれる。


かつてお姫さまが歌うたいをつとめていたときの名残が強すぎるのではないかと思うほど、なんというか、大事にされている感じがする。


自分がえらくなったような気がして、勘違いしそうで怖い。

中身がわたくしでも、一応神の巫女だからだろうか。粗雑な対応はできないのかも。


見張りは彼以外の騎士が交代するから寝る時間はあるらしいけれど、歌まもりさまには全然自分の時間がない。そういう決まりなのは分かっていても、勝手に心苦しい。


「歌まもりさま、今夜は冷えますでしょう。少しあたたまっていらしては?」

「お言葉に甘えて」


失礼します、と一礼して部屋に入った男に、思わず漏れそうになった驚きを飲み込んだ。


こちらから誘ったのに申し訳ないけれど、まさか、真面目なこのひとがなかに入るとは思わなかった。

……いやでは、ないけれど。
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