かぐわしい夜窓
「え?」


うまく飲み込めずに繰り返すと、節の高い指先が、燭台を揺らした。


「見回りに伺ったら、帰りに明かりを消しましょうか。お寒いでしょうから暖炉はそのままにして、寝台の明かりだけ」

「ありがとうございます。でも、周りが寝静まった後、明かりを最後に消すのは寂しいでしょう。ですからいいのです」


かつてただの村娘だったとき、家事を片付けて明かりを消すのはわたくしの役目だった。


寝静まった夜、だれにもおやすみを言えないまま明かりを消すのは、少し寂しかったのを覚えている。


おや、とまばたきをした歌まもりさまは、寂しくないとは言わなかった。


わたくしの言葉を初めから否定してしまわないように、おそらく慎重に言葉を選んでから口を開いた。


「では、おやすみを言いにまいります。その帰りに消すのは、なにも寂しくありません」

「……お、やすみを、言いに?」


はい、と頷いて、歌まもりさまは優しく微笑んだ。


「巫女さま、贅沢はしても構いません。あなたさまは倹約家でいらっしゃる。もっと贅沢でも、わがままでもよろしいでしょう。ですが、心重い贅沢は、なさらない方がよいかと思います」


おやすみを言えば、暗闇も寂しくないでしょう?


申し訳ないと思いながら、暗がりが怖くて明かりをつけたままにしている心苦しさを、見抜かれていたらしい。


それを、できるだけわたくしが話しやすいように、いつもより少し早い時間、わたくしが眠くなり始めた頃に、こうして見回りに来てくれたのだろう。


どうしてわかったんですか、を慌てて飲み込む。


贅沢を厭う巫女が、昼はつけずに夜は明かりを煌々とつけるなんて、暗闇が怖いと言っているのと同じことなのかもしれない。
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