かぐわしい夜窓
「お願いしても、よろしいでしょうか」

「ええ」

「ま、毎晩ですよ」

「ええ」


ごくごく当然のように穏やかに頷かれる。それがあまりに優しくて、ちょっと悲しくなってきた。


これは、完全に暗闇を怖がる子どもを慰めようという状況だろう。


「……わたくし、子どもっぽいでしょうか」

「年相応ですよ。一生懸命におつとめをなさっているのは、知っています。あなたさまは立派な巫女さまです。なにが苦手でも、だれにも遠慮しなくていいのです」


いいえ、とか、十分大人ですよ、とか、見え透いた慰めを言われなかった。それが、無性に嬉しい。


歌まもりさまは、年上だと頼りになるというのは本当だったんだな。


……もし年下のひとや同い年のひとだったら、きっと言えなかった。


恥ずかしくて意地を張ってしまったかもしれない。

きちんとしていると見られたくて、見栄を張っていたかもしれない。


素直に話ができたのは、歳が離れているからだ。年齢を気にすることこそが、子どもっぽいのかもしれないけれど。


子どもだからでも、なんでもいい。ごまかさないでくれて、気にかけてもらえるのは、嬉しい。


ありがとうございます、という呟きが、ひどく掠れる。


窓辺に飾ってある花に視線を外しながら、歌まもりさまが立ち上がった。

立つ動作ひとつでさえ、静かできびきびとした、訓練された動きだった。
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