かぐわしい夜窓
巫女さま。俗称、歌うたいさま。


神に歌を捧げる巫女は、十五になった娘のなかから、神聖なお告げで選ばれる。


否やはない。サシェはこれから毎日、二十五になるまでの十年間、自分のために歌をうたい祈って暮らせと、神に選ばれたのだ。


歌うたいは、たいへん名誉な役職である。


先代がニ十五にならなければ代わらない。そのときに十五でなければ選ばれない。

きちんと教養を身につけ、あたたかな場所で、贅沢な暮らしができる。


ニ十五まで色恋ごとは禁止されているものの、お役目を終えた後は、山のように縁談が舞い込む。

そのなかから自分のよいと思うひとを選べば、幸せに暮らせる。


毎日歌うのが苦痛な娘は、神には選ばれない。選ばれるのは、歌を歌うのが好きな娘だけ。


楽しく歌を歌い、祈りを捧げれば、将来が保証される。

だから、よほどのことがなければ、歌うたいに選ばれた娘は喜び勇んでお役目を全うする。


「至急神殿にお越しください。どうぞ馬車へ」


歌うのは嫌いではなかった。

毎日歌いながら暮らしているくらい、嫌いではなかったけれど——喜ぶのは、難しかった。


わたしは、花売りになりたかったのに。


「サシェ殿?」

「……はい。すぐに行きます」


馬車に揺られてついた王宮は、もう見上げるしかない煌びやかさだった。


目を回している間に化粧を施され、金の粉で肌に祝詞を書き込まれ、うつくしく飾られて、三日三晩、先代歌うたいと歌を歌い。


そうしてわたしは、新しい歌うたいになった。
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