かぐわしい夜窓
「と、特に余っている予算はなんですか?」

「娯楽費という巫女さまの御心をお慰めするための予算があるのですが、さっぱりお使いになっていないので、そちらがあまりにも余っておりますね」


ああ、あの、壁に絵を描いたり、いろいろ集めたりできるお金ね。

それは丸ごと余るでしょうね。わたくし、お願いしているものが、辺りで摘んだお花しかないから……。


「いつものように翌年にまわしてもいいのですが、先立つものには充分余裕がありますよというお知らせです」

「そ、そうですか。あまりにも余って……」

「はい。予算が、あまりにも、余っています」


据わった目で告げられた。こわい。すみません。


「少しは使った方がいいですか……?」

「ええ、少しはお使いになる方がよろしいでしょうね」

「わ、わかりました」


ええとええと、ええと。なにかなにかなにか。 


慈善事業に使おうかとも思ったけれど、わたくしがしたら次代も期待される。それは申し訳ない。


捻り出せないかと全身を見回す。


髪……は朝丁寧に結ってもらった。香油をこの前新しくしたばかり。

体いっぱいの祝詞を書くのに使う金粉は、毎日書くから一番消費するけれど、「金粉」の二文字で、娯楽でないことが丸わかりである。巫女の使う金粉は明らかに必要経費。

衣装も経費。靴も衣装のうち。

飾りは充分しゃらしゃらしているから、もう増やしたくないし……。


「あ」


そうだ。


「爪用の、粉はどうでしょうか」
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