かぐわしい夜窓
「爪用の」

「はい。お世話係の方々がおっしゃることには、飾りは多ければ多いほどよいそうなのです。わたくし、いままで体をきんきらきんにしてきましたが、爪にも色をつけようと思います」


こうなったら、もう、目に鮮やかなぴっかぴかの巫女を目指そう。

ぴっかぴかのきんきらきんのしゃらんしゃらんな目に毒な巫女になって、邪視よけをすればいいのでは?


「それは必要経費ではありませんか?」

「いえ、娯楽費で問題ないと思います。爪を染めるか染めないかは、正装として決められていません。わたくしが染めたいだけですもの」


必死で言葉を並べる。


「爪を染めるなんて、派手すぎるでしょうか。巫女としてふさわしくない装いですか?」

「確かに正装の定めに爪の色はありません。何色でもよいと思います」


ああ、ええと、聞き方を間違った。一般論を気にしているのではなくて。


「歌うたいさまは、わたくしの爪が染まっていたら、どう思われますか」

「より神々しくおなりだろうと思います」


精一杯勇気を振り絞ったのに、この返事。うーん、伝わらない。


言い淀んで。

言葉を選び直して。

やっぱりこれしか見つからなくて、もう一度口を開く。


「変では、ありません?」

「変なんですか?」


わかった。だめだ。この真面目なひとに、こういう言い方をしたのが悪かった。


「前にも申し上げましたが、心重い贅沢をなさる必要はありませんよ。余裕があるのはよいことです」

「はい」


巫女さま、とやわらかい呼び名が降る。
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