かぐわしい夜窓
「娯楽は娯楽です。無理にとは申しません」

「はい。無理にでは、ないのですが。その……より娯楽にするためにというか、爪を楽しむためにというか、ひとつ、お願いがあります」

「なんでしょう」


がんばれ、わたくし。がんばれ。


「歌まもりさまに、爪の色を選んでいただきたいのです」


あなたの贈り物が欲しい。


爪を染めるのは、あなたの贈り物がいい。


公の予算、用意してくれるのは別のひと。でも、せめて、あなたが選んでくれた色がいい。


「…………」

「…………」


歌まもりさまは、しばらく黙っていた。


こんなことを言ったら、驚かれると思っていた。もしくは、流されると。


でもいま、歌まもりさまの表情は、とても静かだ。


いつも穏やかな笑みをたたえている口元がするりと凪ぐと、怖いくらいに整った顔立ちだった。


こちらを見つめるすみれ色を、必死に見つめ返す。

祈るように、まっすぐ、ひたむきに見つめ返す。


いま目を逸らしたら、この三年間の距離が変わって、もう二度と元に戻らないような気がした。


「……私が選ぶ色でよろしいのですか」

「あなたが選んでくださる色がいいのです」


即答に、歌まもりさまが息を呑んだ。


言葉をひとつ飲み込んだのだろう、明白な間が落ちる。
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