かぐわしい夜窓
「……わかりました。それが、あなたさまのお慰めになるのでしたら」
「なります」
食い気味な返事に、困ったように目の前のひとの眉が下がる。
うっ、すみません。でも引かない。
「……色を、お選びすればよろしいのですね?」
「はい」
あなたが選んでくれた色で、爪を染めたい。
お役目に絡め取られた、なにもかも。そのなかに、ひとつくらい、好きなものが欲しい。
飾られて飾られて、もうすっかりサシェでなくなってしまったわたくしに、よりどころをください。
サシェでなく、立派な巫女であれと願われて、そうありたいと思って、努力してきたつもりではある。けれど、それが寂しくないかと言ったら、嘘になる。
前任者は引退して久しい。この厳かな場所では、いまはもう、あの日、幼いわたくしを迎えに来たあなたしか、わたくしの名前を知らない。
あなたしか、かつてサシェと名乗っていた村娘を知らない。
かつてのわたくしを知るひとが、花を手折ってくれる。よい夜を祈って、明かりを消してくれる。
たったそれだけのことが、夜毎どんなに嬉しいか、あなたはきっと思いつきもしないのでしょう。
「なります」
食い気味な返事に、困ったように目の前のひとの眉が下がる。
うっ、すみません。でも引かない。
「……色を、お選びすればよろしいのですね?」
「はい」
あなたが選んでくれた色で、爪を染めたい。
お役目に絡め取られた、なにもかも。そのなかに、ひとつくらい、好きなものが欲しい。
飾られて飾られて、もうすっかりサシェでなくなってしまったわたくしに、よりどころをください。
サシェでなく、立派な巫女であれと願われて、そうありたいと思って、努力してきたつもりではある。けれど、それが寂しくないかと言ったら、嘘になる。
前任者は引退して久しい。この厳かな場所では、いまはもう、あの日、幼いわたくしを迎えに来たあなたしか、わたくしの名前を知らない。
あなたしか、かつてサシェと名乗っていた村娘を知らない。
かつてのわたくしを知るひとが、花を手折ってくれる。よい夜を祈って、明かりを消してくれる。
たったそれだけのことが、夜毎どんなに嬉しいか、あなたはきっと思いつきもしないのでしょう。