かぐわしい夜窓
神とひとを繋ぐお役目の巫女は、ひとではない。よって名前は呼ばれない。


呼ばれ慣れたサシェという名をなくし、巫女さま、巫女さまと呼ばれるたび、サシェではなく、ただの女の子でもない、透明なものになってしまった気がして、苦しかった。


迎えにきた大男は、歌うときもそうでないときも、いつでも近くに控える。


というのも、男の役目は、歌うたいを守る、歌まもりなのである。


巫女が無事に二十五までつとめられるよう、危険から守る大役だった。


「歌まもりさま。どうしてわたしが今代の巫女だと分かったのですか」


わたしは、合間を見ては歌まもりさまに話しかけることにしている。


守ってもらうのに、怪我をするかもしれないのに、何も知らないままでは、なにかあっても悲しむことさえできない。

そんな不実なことはしたくなかった。


幸い、歌まもりさまは話嫌いではないらしく、こちらから話しかけると返事をしてくれる。


仕事中ということもあるのだろうか、歌まもりさまから話しかけられることはないのだけれど。


「先代巫女さまにお告げがあったのだそうです。名前と、もし同じ名前の者がいれば髪や目の色、住んでいる場所などもお告げがあるのだとか。私は司祭さまから住所と名前を教えられて、あなたをお迎えに伺いました」

「間違いがないように、こまやかなお告げがあるのですね」

「毎日お祈りと歌を捧げられるのに、選んだ相手でなくては嫌でしょうからね」

「そうですね、毎日ですものね」


たくさんのひとのなかからせっかく選んだのに間違っていたのでは、ひどくがっかりすると思う。


間違われないようにお告げをするのは、神の優しさだけではないのだろう。
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