かぐわしい夜窓
「私は歌まもりです。私こそがあなたさまをお守りするべきでした。お守りできなかった以上、」

「だからこそです」


巫女が静かに遮る。


「信頼の置けぬ者に、歌まもりをお願いしたくありません。わたくしはあなたさまを信頼しています。あなたさまとの数年間を信じています。歌まもりはあなたがいい。あなたでなければいやです」


これまでの思い出が、巫女の判断を鈍らせ、頑なにさせているのは明らかだった。


なんとか説得できそうな言葉を探す。


「……私は、不勉強でした」

「いいえ。みなが不勉強でした」

「私は、力でしかあなたを守れません」

「力を振るうことしかできないひとが、明かりとお花を気にかけてくださるでしょうか」

「私は、神殿騎士のなかではいまだ未熟者で……」

「わたくしより年上でいらっしゃいます。いつも頼りにさせていただいておりますわ」

「このたびのことはきっと、神の御怒りに触れたでしょう。このままのうのうとしているわけにはまいりません。なにか手を打たなくては、みなに迷惑がかかります」


【よくぞ言うた】


嵐とも言葉ともわからないほど重々しい音が、部屋に満ちる。


なにか、いる。巫女のそばになにかいる。


突然聞こえた音と、透明で恐ろしいくらいの存在感から、ひとならざるものであることは確か。


巫女が「本日は拙い歌をお聞かせして申し訳ありません」と謝るのを聞いて、正体を察した。
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