かぐわしい夜窓
【よい。事情があったことはわかっておる】

「寛大なお言葉をありがとうございます。では、そのお怒りは、このわたくし、あなたさまの歌うたいが傷ついたことが原因ですか」

【我が巫女が傷つけられたのだぞ、怒らずにいられるか!】


轟々と耳元で恐ろしい音が鳴っている。


音がかろうじて言葉に聞こえるのは、そばに巫女がいるからに違いない。


もしこの場に巫女がいなければ、すぐさまこの体がなくなっていただろうと確信させる激しさをもって、轟々と鳴っている。


……ここにいては、まずい。そう思うものの、自分は盾だ。巫女のそばを離れるわけにはいかない。


まさか巫女を害すことはないだろうが、いざというときに盾になれないのでは、それこそほんとうに歌まもり失格である。


威圧感に負けないように、震える体を叱咤していると、巫女と目が合った。


つう、と淡褐色の目が横に動く。何度か繰り返されて、視線で部屋の隅を示しているとわかった。


「避けて」か「逃げて」あたりの意味だろうが、逃げるわけにはいかない。


なんのために、ずっと、独身で細身のままでいると思っているんだ。
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