かぐわしい夜窓
「わたくし、この方がいいのです。この方になにかあったら耐えられません。この方が歌まもりでないのなら、わたくしも歌うたいを辞退いたします」


いかにも悲しげに目を伏せて、すごいことを言い出した巫女に目をみはる。


……いやそれは、ふたりともいなくなってちょうどよくないだろうか。新しい歌うたいを見繕って終わりじゃないのか?


【巫女、巫女、歌うたいをやめるなどと申すな】


いや動揺してる。ものすごく動揺してる。効いてる。


「ですが、この方が罰せられるのでしたら、わたくしもこのまま歌うたいではいられません……」

【わかった、巫女、罰せぬ。罰せぬから、このまま我が歌うたいでいておくれ】


えええ。どれだけ大事にされてるんだこの巫女。よくわからないうちに罰されない流れになっている……。


「まあ、寛大なご対応をありがとうございます。わたくし、この方が歌まもりでいてくださるのでしたら安心ですわ。もちろん喜んでお役目を果たします」

【うむ、うむ】


轟々と唸っていた音が、いまだに大きいものの、耳鳴りがしない程度に穏やかになった。
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