かぐわしい夜窓
「調子が戻りましたら、精一杯歌いますわ。話すのは問題ない程度の症状ですから、きっとすぐに戻ります。そうしたらとっておきをお聞かせしますから、楽しみにお待ちくださいませ」

【そうか、それは楽しみだな】

「わたくしも楽しみですわ。ご心配いただき、お声をかけていただきまして、ありがとうございました」

【うむ】

「体調が戻りましたら、一番にお祈りにまいりますわ。本日はゆっくり過ごし、回復に努めたいと思います」

【そうかそうか、ゆっくり休むとよい。早くおまえの歌が聞けるのを待っているぞ、巫女よ】


来たときとは真逆の上機嫌さで、音の渦が去っていく。


ざわめきがひとつ残らず静かになるのを待ち、こちらに向き直して、巫女が笑った。


「歌まもりさま——これで、問題ありませんわね?」


すごい口説き文句だった。


ああ、と思った。神をも恐れぬ所業に笑い出したいくらいだが、言葉が出ないほど体が震えている。


降参。降参だ。
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