かぐわしい夜窓
初め、凍ったように動かなかった表情は、年を重ねるごとに解けて和らいだ。

綿毛のようにやわらかに笑う。ふわふわした控えめな笑い声は、静かな部屋にだけ、小さく響く。


笑うとき、口元を隠す手は白い。出会ったときは日に焼けていたから、それだけ年月が経ったのだと、笑うたびに思う。


華奢な爪は、金。こちらが選んだ色を律儀に塗り続けている。

爪の色が目に入るたび、あのすがるような必死な眼差しを思い出す。


『わたくしが、不勉強だったのです』

『この神殿にいる全員が気づかなかったことの責任を、あなたさまおひとりに負わせるつもりはありません』

『力を振るうことしかできないひとが、明かりとお花を気にかけてくださるでしょうか』


ああ。


『いつも頼りにさせていただいておりますわ』


ああ。


『わたくし、この方がいいのです』


自覚は、きっと、随分前からだった。


——降参。降参だ。


小さい子どもだと言い聞かせるのは、やめる。
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