かぐわしい夜窓




「聞き分けられなくて、ごめんなさい。歌まもりは、あなたさまがいいのです」


困りましたわね、と笑うと、彼の顔がくしゃりと歪んだ。


「聞き分けるなど」


『どうか七年後も、私を、あなたさまの盾のままでいさせてくださいね』


かつてそう笑ってくれたこのひとに、最後まで歌まもりでいてほしかった。このひとがよかった。


でも、それは。


「わたくしの、わがままだわ」


辞めさせてほしいと願っているのに、個人的な理由で辞めないでほしいと言うなんて、わがまま以外のなにものでもない。


彼には断るすべがないのだから、わがままなんて可愛らしい言い方ではなくて、脅しと言い換えてもいい。


ずるいのは、わたくし。


……公私混同、ひどい巫女だわ。


ぐっと唇を噛む。


「いいえ。光栄に存じます」


怒られても仕方ないのに、穏やかに微笑むばかりでさっぱり怒らないこのひとに、甘えてしまう。


手ひどくなじって、上に掛け合って、辞められたっておかしくない。

それほどの仕打ちをしようとしている。


でも、今夜も窓辺にお花を飾りたい。


あなたにお花を持ってきてほしいなんて、甘えたことを考える。
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