かぐわしい夜窓
「ごめんなさい」


掠れた謝罪がこぼれ落ちた。まるで自分の声ではないみたいだった。


「あと四年だけ、あなたの時間をください。そうしたら、あなたを自由にして差し上げられる」


真面目で誠実なひと。


お仕事だからやってくれているのに、付き合わせて申し訳ないという気持ちは、ずっと奥底でくすぶっている。


『歌まもりさま——これで、問題ありませんわね?』


問題、大ありなことは、実のところ、言った自分が一番わかっている。


いま、歌まもりさまが離れた壁際にいることがその証拠だ。


職務を全うしようとしていたのに、わたくしが無理矢理合図して離れてもらった。

もし神が歌まもりさまを儚くしようとしたらと思うと、怖くて怖くて、盾になんてできなかった。


ごめんなさい、がもう一度滑り落ちる。


わがままで、お仕事を奪ってしまって、甘えてて、ごめんなさい。


「巫女さま」


落ち着いた声がこちらを呼ぶのを、断罪を待つような気持ちで聞いた。


「……はい」

「四年でなくても、構いません」

「え」


いま、なんて。


歌うたいのお役目は十年で交代する。そう決まっている。


よ、四年でなくても、構わない? 十年でなくてもいいということ?


それは——わたくしが歌うたいでなくなってもそばにいてくれるということで、つまりはその、そういうことではないのか。
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