かぐわしい夜窓
「あの、」

「私は、自由が欲しいわけではないのです。このたびの自分を不甲斐ないとは思いますが、お役目を不満に思ったことはございません」

「……はい」

「あなたさまは素晴らしい巫女です。懸命で、誠実で、前向きで、明るく、歌に長けた巫女です。選ばれる理由が、私などにもわかります」


あなたさまの歌まもりでいられることを、たいへん光栄に存じます、と微笑まれて、くらりと目眩がした。


「あり、がとう、ございます……?」


すごい褒められている。


褒めに褒められている。それはだれのことですか、と首を傾げたいくらい褒められている。


「巫女さま。私の気持ちは、あなたに花を差し上げた夜から変わりません」


巫女さま。歌うたいさま。


「ただ、あなたが笑っていてくれたらと。笑ってくれたらと、願っています」


ですから、四年でなくても、自由になれなくても、構いません。


「……以前、娯楽費の話をしたとき、私は金があなたに似合うと答えましたが」

「ええ」


あなたに似合うと言われたあの日からずっと、いまも、わたくしの爪は金色をしている。


「ほんとうは、紫を選びたかったと申し上げたら、お困りになりますか」
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