かぐわしい夜窓
寝台に横たわったまま見上げると、歌まもりさまはこちらを覗き込んだ。


光の関係で顔全体に薄い影ができて、額を縁取る髪がいつもより濃い茶色になっている。すみれ色の目が、宝石みたいにきれいだった。


するりと手を取られて、冷え切った爪の上を、太い指先が優しく撫ぜた。


あんまり予想外すぎて、思わずびくりと盛大に手が跳ねる。


だって、歌まもりとしての距離を保ってきたこのひとに、エスコートではなく触れられるとは思わなかったんだもの。


「……おいやですか」


いいえ、と答えたはずの声は音にならなかった。慌ててぶんぶん首を振る。


いやではないけれど、恥ずかしいというか、びっくりするというか、変な感じがしますね。うん。


緊張しすぎて指は冷えているのに、顔は沸騰しそうに熱い。


「あのとき、よほど、紫と言おうかと思いました」


歌うたいさまが歌まもりの色を身につけていたら、そういうことでしょう。


「それはちょっと、卑怯かと思いまして」

「いえ、その、卑怯だなんて」


むしろ喜んで身につけましたけれど。


「でもいまは、金にしてよかったと思っています。どんなに飾られてもあなたは変わらず清廉で、金がそれを際立せる。金がこれほど厳かに似合う方を、私は他に知りません」


あああ、だめ、もう顔が熱すぎてだめ。


「巫女さま」

「はい」


役名を呼ばれた。聞き慣れた、優しい声色。


お役目を言われただけなのに、甘やかな響きをしていた。


「これから先も、あなたに笑いかけたいと思っては、いけませんか」
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