かぐわしい夜窓
うそ。
夢を見逃した? 忘れた?
そうだ、まだ目が覚めていないんだわ。ここは夢のなか、だからお告げがないのよ。うそ、うそ、うそ——
「珍しくお寝坊ですね、歌うたいさま。おはようございます、よい朝ですよ」
からかうような軽やかで穏やかな世話係の声は、聞こえないふりをした。
母のような年齢の彼女の、十年間お世話になって慣れ親しんだ声が、いまだけ耳につく。
大丈夫、まだ夢うつつ、起きていないわ。大丈夫、大丈夫。
「歌うたいさま、歌うたいさま。朝にございますよ」
悪気なく繰り返す声に、起きないわけにはいかなかった。無理矢理笑顔を作る。
「おはよう、よい朝ね」
「はい、おはようございます」
「……朝餉の前に、歌まもりさまをお呼びして」
はい、と返事をした世話係が、なにも言わずに部屋を出た。
いくら歌まもりさまとはいえ、支度もしないで呼ぶなど初めてのこと。
きっとお告げがあったと勘違いしているのね。急いで呼んできてくれるのでしょう。
申し訳なさがひたひた喉を迫り上げる。
起きたばかりでひどい顔をしているに違いないけれど、相談しなければ。
これはわたくしひとりのことではないのだもの。わたくしたち、ひいてはこの国の未来がかかっているのだもの。
泣きそうに震える体を叱咤して、じっと歌まもりさまを待つ。
じりじりと長く感じられた数分後、控えめなノックが響いた。
夢を見逃した? 忘れた?
そうだ、まだ目が覚めていないんだわ。ここは夢のなか、だからお告げがないのよ。うそ、うそ、うそ——
「珍しくお寝坊ですね、歌うたいさま。おはようございます、よい朝ですよ」
からかうような軽やかで穏やかな世話係の声は、聞こえないふりをした。
母のような年齢の彼女の、十年間お世話になって慣れ親しんだ声が、いまだけ耳につく。
大丈夫、まだ夢うつつ、起きていないわ。大丈夫、大丈夫。
「歌うたいさま、歌うたいさま。朝にございますよ」
悪気なく繰り返す声に、起きないわけにはいかなかった。無理矢理笑顔を作る。
「おはよう、よい朝ね」
「はい、おはようございます」
「……朝餉の前に、歌まもりさまをお呼びして」
はい、と返事をした世話係が、なにも言わずに部屋を出た。
いくら歌まもりさまとはいえ、支度もしないで呼ぶなど初めてのこと。
きっとお告げがあったと勘違いしているのね。急いで呼んできてくれるのでしょう。
申し訳なさがひたひた喉を迫り上げる。
起きたばかりでひどい顔をしているに違いないけれど、相談しなければ。
これはわたくしひとりのことではないのだもの。わたくしたち、ひいてはこの国の未来がかかっているのだもの。
泣きそうに震える体を叱咤して、じっと歌まもりさまを待つ。
じりじりと長く感じられた数分後、控えめなノックが響いた。