かぐわしい夜窓
「巫女さま、歌まもりにございます。お呼びと伺い、まいりました」

「開いています。お入りください」

「失礼します」


そばに控えようとした世話係には、「ふたりでお話したいの」と伝えて出てもらう。


厳重な警戒に、「防音の道具を置きますか」と低い声で短く聞かれる。


その手にはメモがある。きっと、次の巫女の名前を控えるためのメモ。


お告げはふたりきりでなくてもいいのだから、ふたりでと念押ししたことに疑問が浮かんだだろうに、なにも言わないでくれたのだ。

「お告げのことですか」とも、「どうしたのですか」とも聞かずに、真っ先に防音が必要かどうかを聞いてくれた。


「ええ、ぜひ」


こういうとき、このひとは順番を間違えない。


それは歌まもりとしての訓練と、このひとの性質がそうさせるんでしょうね。


思慮深く、誠実で、落ち着いているひと。


「かしこまりました」


節の高い指が、小さな水晶を寝台のそばに置く。


これでわたくしたち以外には会話が聞こえなくなる。全員扉の外にいてもらっているけれど、念のため。


……ほんとうのことを伝えたら、たいへんな騒ぎになるに決まっているもの。

もちろん今日中に話をしないといけないけれど、どうしたらいいか相談してからにしたい。
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