かぐわしい夜窓
「あの、やすむ気はあるのですけれど、起きたばかりで眠れる自信がありません」


昨日ぐっすり眠ってしまったし、不安でおそろしく目が冴えているしで、全然眠れない。


正直に言ってみたら、すごい返事が来た。


「お望みとあらば強制的に眠らせますが」


強制的ってどうするのかしら。おまじないをするとか、手刀で意識を刈るとか……?


「お願いします」


おそるおそるのお願いに、腰に下げた道具入れから睡眠薬を取り出された。


この形、知っている。

使ったことはないけれど、飲んだ途端に眠ってしまって、一日中起きないひともいる強力な睡眠薬だ。


ごく当たり前のように出された物騒な薬は、自分用なんだろうか。それとも、わたしがうまく寝られないときのために、持っていてくれたのだろうか。


歌まもりさまは手慣れた手つきで水差しからコップに水を注いでくれ、薬を一錠渡してくれた。


「みなには私からうまく説明しておきます。安心してごゆっくりなさってくださいね。おやすみなさいませ」

「ごめんなさい、ありがとうございます。……おやすみなさい」


ゆっくり薬を飲み込む。最後に見たものが優しい微笑みでよかったと、思った。
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