かぐわしい夜窓
突然投げられた結婚事情にまばたきをする。


「どうしてですか?」


自分を守ってくれる歌まもりさまに、恋をする歌うたいは多いと聞く。十年も一緒にいれば、情がうつることもあるだろう。

もしそうなったら困るから? 


下世話な方に傾いた思考を、「盾だからです」と落ち着いた声が短く押し戻した。


「私は、敵を倒せばいいばかりの、剣ではありません。私の役目は、あなたさまの盾になること。あなたさま、ひいては神の困難を打ち払い、嘆きをすくい、体を張って、最後までおそばでお守りしなくてはなりません」


敵ではなく困難と言った、たったそれだけで、このひとを信じたいと思った。

このひとがわたしの歌まもりでいてくれて、よかったと思った。


「……はい」

「歌まもりは、命を惜しんではいけないのです」


恋をするかもしれないからなんて、ばかな予想をした。全然違う。


覚悟の話だ。


「家族がいては、命をかけてお守りしようとしても、難しい場合があります」


人質にとられるかも。最後に会いたいと思うかも。命を捨てるのは惜しいと思うのだって、普通のこと。


「みなが戦ういくさなら、途中で命を落とすことに諦めもつくでしょう。しかし、立候補で決める歌まもりを、わざわざ押しつける必要はありません」
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