かぐわしい夜窓
「まるで自分が特別な存在になれたような気持ちがして、……大事にされているような気がして、多分、舞い上がっていました」


夢の中にいることにも気づかないくらい、きれいで自然な夢でした。

覚めなければいいのにと、泣きたいくらい、甘い甘い、夢でした。


歌まもりさまは静かに口を開いた。こちらを向いた眼差しも、声色も、どこまでも静かに凪いでいた。


「ひとつ、……いえ、ふたつ、恐れながら訂正を」

「はい」

「あなたさまは選ばれし巫女です。きちんとお役目を果たす力をお持ちであることが、それを証明しています」


常人が祈っただけでは、神はお力を示されません。国境は荒れ果て、わが国は攻め入られるでしょう。


すみれ色の眼差しが、しゃらりと揺れる飾りを見遣る。


「星の数ほどいる人々のなかから、たったおひとりだけ選ばれるお役目についている方を、特別でなく、なんとお呼びすればよいのでしょう」


それから。


「『まるで自分が特別な存在になれたような気持ちがして』、『大事にされているような気がして』とおっしゃいましたね」

「ええ」


するりと手を取られた。


ごく自然に、手慣れた仕草で膝をついた歌まもりさまの視線が、わたくしの指先を射抜く。


真っすぐな目の先、世話係たちに丁寧に手入れを施され、その全てがまばゆく金に光っている。


「私はあなたを、確かに大事にしました。特別に思いました。……それは、夢ではありません」
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