かぐわしい夜窓
穏やかに見上げられ、どんな顔をしたらいいのかわからなくて、まあ、とまばたきをした。


すごい口説き文句だわ。口説いているつもりはないのでしょうけれど。


「私ひとりでは、不足でしょうか」

「いいえ、ちっとも。……あの、いまも、夢ではないのですか」

「もちろん、いまもです」


可愛くない返事をしたのに、歌まもりさまは真剣だった。


「もちろん私ひとりだけでなく、この神殿に控える者はみな、そうだと思います。あなたは親しまれ、敬われる巫女です」


私はそれを、何年も見てきました。


「……ありがとう、ございます」


なんて甘くて、なんてむごい言葉でしょうね。あなたにそういうつもりがないのが、なおさら。


困り果てて、すみれ色の瞳をじっと見つめる。


お礼以外になにを言えばいいのかわからなくての行動を、歌まもりさまは、別の意味に受け取ったらしかった。

続けざまに声が降る。


「私はあなたを信じています。あなたのお力を信じています」


そうして。


「できるだけお早く、あなたが外に出られたらと思います」


……よく選ばれた慰めの言葉だわ。


きっとお告げがありますよとは、言えない。いまのこの状況は、神の御意志だから。


「ええ。ありがとう、ございます」


わたくしは確かに歌うたいで、このひとは確かに、わたくしが望んだ歌まもりなのだった。
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