かぐわしい夜窓
歌まもりさまが、今日も明かりを消しにやってくる。その手には、かぐわしい白い花。
「わたくし、このお花を見たことがあります。随分前に、……そう、引き継ぎをしたときに」
覚えておいででしたか、と微笑みながら、歌まもりさまが窓辺に近づく。その顔が月明かりに薄暗く照らされて、うつくしいすみれ色がきらめいた。
「庭師に勧めてもらいました。十年に一度咲くのだそうですよ」
「……十年に、一度」
「ええ。以前引き継ぎをしたときとは別の株だそうですが、ほんとうに珍しい花ですから、ぜひあなたさまの窓辺にと申しておりました」
他のひとたちと同じく、庭師はわたくしを歌うたいさまと呼ぶ。いまだそう呼んでくれる。
それをわざわざあなたさまと言い換えてくれたのは、歌まもりさまの優しさだろう。
十年。
随分と長い時間だわ、と思った。
つられて、まだ十年とはいかずとも、このひとに随分と長い時間を一緒に過ごしてもらったのだわ、と思った。
そうして。わたくしたちはふたりとも、その長い時間がいつ終わるか、わからずにいる。
「わたくし、このお花を見たことがあります。随分前に、……そう、引き継ぎをしたときに」
覚えておいででしたか、と微笑みながら、歌まもりさまが窓辺に近づく。その顔が月明かりに薄暗く照らされて、うつくしいすみれ色がきらめいた。
「庭師に勧めてもらいました。十年に一度咲くのだそうですよ」
「……十年に、一度」
「ええ。以前引き継ぎをしたときとは別の株だそうですが、ほんとうに珍しい花ですから、ぜひあなたさまの窓辺にと申しておりました」
他のひとたちと同じく、庭師はわたくしを歌うたいさまと呼ぶ。いまだそう呼んでくれる。
それをわざわざあなたさまと言い換えてくれたのは、歌まもりさまの優しさだろう。
十年。
随分と長い時間だわ、と思った。
つられて、まだ十年とはいかずとも、このひとに随分と長い時間を一緒に過ごしてもらったのだわ、と思った。
そうして。わたくしたちはふたりとも、その長い時間がいつ終わるか、わからずにいる。