かぐわしい夜窓
沈黙してはいられなかった。震える唇を無理矢理開く。


喉がひどく渇いて、痛いほどだった。


「歌まもりさま」

「はい」

「わたくしは、誕生日がわかりません。歌うたいとして選ばれたのですから、あの日には十五になっていたことは間違いないと思いますが……」

「そう、なのですね」


控えめな歌まもりさまの相づちに、顎を落として頷く。


誕生日がわからない、という状況が、貴いひとびとには、わからないのかもしれない。


わたくしは、貧しさゆえか理由はわからないけれど、赤ん坊の頃に神殿が管理する孤児院に預けられ、預けられた日を誕生日のように祝ってきた。


年齢も正確なところはわからなかったのだけれど、歌うたいに選ばれて、初めて十五を過ぎていたらしいと判明したくらいなのである。

神殿に連なる場所で暮らしてきたおかげで、祈りは身に染みついているから、おつとめが苦でなかったことが幸いか。


──ほんとうに、わたくしは二十五を迎えたのか。


生まれの正しいひとであったなら浮かぶべくもない疑問を、わたくしはつまびらかにしなくてはならない。


どれだけ恥ずかしく、情けなくても、わたくしの個人的な感情でわがままを言うわけにはいかないわ。

国が、かかっているのだもの。


生まれ育った孤児院の院長を呼ぶ。わたくしたちは遠出ができないから、なにをするにも相手に動いてもらう必要がある。

呼びつける不躾を、まずはお詫びした。


そうして話を聞き、調べ、持ち寄り、探し、導き出した結論は、やはり「歌うたいはいつ生まれたのか定かではない」ということだった。
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