かぐわしい夜窓



生まれた日もわからないとは、何事か。


聖堂前に人々がおしかける。


はるばる巡礼に来たというのに、随分と手荒い歓迎である。土地の豊かさを祈らんとする巫女を、こうも蔑ろにするとは。


巫女の住まういつもの神殿なら、このような事態にはならない。


いつもの神殿では、奥まったところには住まいがあるので、厳重に警備をしている。

喧騒が祈りの邪魔になってはいけないと、防音設備も敷かれている。


なにより、こんな事態になど、われわれがさせない。


あの娘がなにかをするはずがないと、巫女を戴く神殿の全員がわかっていた。


あの娘が、あの娘に限って、ばかなことをするはずがない。


そういう娘だった。

そういう娘だと、十年間が知らしめてきた、巫女だった。


「顔を見せにゆきます」


祈りを取りやめるかざわつくなか、硬い顔で口を開いた娘の前に、かばうように前に出た。


ああ、歌まもりでよかった。

この喧騒をおさめる術を、歌うたいをまもる立場を、持っている。
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