かぐわしい夜窓
「無礼を承知で申し上げます。巫女さま、私がおそばに控えているところで、祈りを捧げていただくことはできますか」

「え? ええ、もちろん」

「短いもので構いません」

「わかりました。では、この国の発展を願って祈りますわ」

「お願いします」


すぐ後ろに付き従って聖堂に向かい、民草の前に出、おそばに控えると、娘がするりと膝をついて、手を組んだ。

手慣れた、あまりに馴染んだ仕草だった。


祈りにともなって、ぽうっと辺りが淡く光る。


その明かりを見た群衆に、ざわめきが広がった。


巫女の祈りを初めて見る者も少なくない。自分たちが疑い始めていた巫女の力を、目の当たりにしたのだ。


いまこそと、声を張り上げた。


「このお方を見損なうは、神への冒涜ぞ!」


喧騒がしんと静まる。巫女はそれに目をくれず、変わらず祈りを捧げている。


「この聖堂を見よ、この明かりを見よ、巫女さまを通して清らかに変わる空気を見よ。どなたのおかげで我が国の守りが堅固であるか、思い出すがよい」


見よ、と唸るように告げる。


「このお方は確かに巫女さまだ」


ぐるりと見回した。


見ろ。巫女を見ろ。ひと目見れば、この清廉な娘は神に選ばれているとわかる。


「いま一度繰り返す。それでも弁えぬ者は私が相手になろう」


息を吸え。

堂々と、声を上げろ。


自分は歌まもり。


この巫女の、歌まもり。


「このお方を見よ。巫女さまを見損なうは、神への冒涜ぞ!」


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