かぐわしい夜窓
巡礼はこの先、取りやめることになった。


元々、巫女が住まう神殿をあけるのは滅多にないことだ。

戦地での祈りがどうしても必要だなんていうような、非常事態にしかない。


わたくしのお役目が終わらないという非常事態の打開策になればと、徳を積むべく新たに巡礼を実施したのだけれど、効果は目ぼしくなかった。

そのうえ、神殿で祈っても国境の守りは揺るがない。

無理をして危ない目に遭うよりはと、こちらを慮った決定をしてもらった。


いつでも代われるように準備をして、引き継ぎの儀式をしたら、別棟に移る。そこで暮らしながら、進退を決める。


まだ力は残っている。祈りを捧げるたび、国の守りは保たれている。


だから人々はわたくしを粗雑に扱えず、遠巻きながら丁寧な扱いをしてくれた。

おかげでわたくしは、名ばかりの娘にはならず、あわれな格好をせずに済んだ。


……そこに以前のような敬意は伴わなかったけれど、でもそれは、仕方のないことだ。


むしろ、ただの村娘が尊敬される仕事に就くことができて、その元村娘をきちんと尊重し敬ってくれる人々が周囲にいてくれたことのほうが、珍しかったのだ。


悲しみに暮れる時間も、余裕も、資格もない。
< 68 / 84 >

この作品をシェア

pagetop