かぐわしい夜窓
歌まもりさまの口調は、ごく静かで落ち着いていた。


当然だという雰囲気が根底にあり、考え抜かれていて、心からそう信じている口調。


「家族がいる者に、命を捨てて戦えと命じるわけにはまいりませんでしょう。それは志高く騎士になった者たちへの、またそれを支える家族への、あまりにむごい仕打ちです」


われわれは、選んで騎士になりました。騎士をやめることも、また選べるのです。


「自分ではできると思っていても、いざとなると、ということもあります。それはそのときになってみないとわかりません。不安要素は少ない方がいい、という考えもあるでしょう」


ですから、巫女さま。


「歌まもりは、巫女さまを一番にお守りすると、主観でも客観でも思う者のなかから選ぶのです」


静かな覚悟だった。


歌まもりをすると決めた、歌まもりに選ばれた自分への誇りがにじんだ横顔を、そっと見つめる。


歌まもりさまは、わたしをなにに代えても守ると決めたので選ばれた、と。すごい話だ。


わたしは受け身で、自分で立候補したわけじゃない。神から選ばれただけ。

歌まもりさまは、自分で選んだのだ。相手がどんな娘かも分からないのに。


立候補した者の中から、二十歳以上で、できるだけ平凡で、なるべく線が細く、怖い顔ではなく、なるべく目立たない見た目の、覚悟が決まっているひとを選ぶ。

なんて厳しい条件なんだろう。


すごいひとが来てくれたんだなあ。


……少なくとも、わたしの五つ上かあ。


切れ長の目はいつも涼しく、見上げるほど大きいのに、静かな男だった。


二十歳は、随分と大人に感じる。逆にわたしが子どもなだけなのかもしれないけれど。


「歌まもりさま、お名前はなんとおっしゃるのですか?」

「巫女さま、私はあなたをお守りするがお役目。盾に名前はありません」

「では、歌まもりさま、と」


敬語も敬称もいらないと言われたけれど、頑として頷かないでいたら、そのうち諦めてくれた。


よかった。年上のえらいひとをぞんざいに扱うなど、元村娘には耐えられない。
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