かぐわしい夜窓
「長い間お付き合いいただきまして、ありがとうございました」

「それが私のつとめです。なにより、私がそうしたかったのです。ご一緒できて光栄でした。巫女さまが、あなたでよかった」

「こちらこそ、何度勇気づけられたことでしょう。歌まもりさまがあなたさまでよかったと、始めからずっと思っています。心より感謝申し上げます」

「ありがとうございます」


指先が目につく。


「この飾りも、金粉も、落とすときが来るのですね。なんだか不思議な気分だわ。……爪の色は、落とさなくてもいいでしょうか」

「巫女の正装には含まれておりませんし、娯楽費の計上ですから、装飾として外す必要はないかと存じます」

「よかった。おつとめに励んできた証が、ひとつでも残って嬉しいです」


まばたきをされた。


「大変なことも、心重いこともたくさんおありでしたでしょうに、あなたは嬉しいとおっしゃるのですね」

「嬉しいですよ。わたくしは、巫女に選ばれて理不尽さを嘆いたことはあれど、この十年間が違う道であったほうがしあわせだったとは思いません」

「窮地に立たされたとしてもですか」


ええ、と頷いた。落ち着いていた。


誇りをお持ちなのですね、とまぶしそうに目を細めるから、今度はこちらがまばたきをする。
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