かぐわしい夜窓
「……ほこり」

「ええ。それを誇りというのです」

「意地ではなくて、ですか?」


くすりと笑われた。


「いいえ。あなたの高潔さには、誇りのほうがよく似合う」


おそばに控える栄誉に浴して光栄でした。


「風がなければランプも燃えましょう。あなたの十年間が、人々に敬われて終わることを嬉しく思います」

「ありがとう存じます」

「ここのところ、ずっと気を張っていらしたでしょう。今日はゆっくりおやすみなさいませ」

「はい」


言わなければ、と思った。このひとに、いま、言わなければ。


「歌まもりさま」

「はい」


おいやでしたら、ごめんなさい、と断って。


「意地もあります。誇りもあるのだと思います。でも、一番は、あなたさまが一緒にいてくださったからです」


指先を見やる。村娘には不似合いな、豪奢な色をしている。


「あなたさまがくださった色だもの。なくしたくなかったのです」

「巫女さま……」


なにかが滲んだ声色を、なにと気づく前に遮る。
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