かぐわしい夜窓
「花を。花を、飾りたいのです。夜は、お手すきでしょうか」

「どの晩でもあいておりますよ。私は、あなたの歌まもりですから」


……このひとの微笑みは、いつも優しかった。穏やかで、優しくて、隙がなかった。


でもわたくしは、わたくしたちの間に横たわるお役目をおしても、あなたさまの隣が欲しいのです。


「では、三日後、引き継ぎの儀式が終わった後は、お手すきですか」


歌まもりではなくなっても、そばにいてくれると言った。それだけが、今日まで頼りだった。


「ええ、もちろん」

「その、すごいことを、言いますが。笑わないで、ほしくて」

「なんでしょう」

「わたくし、別棟に花を飾りたいのです」


歌まもりさまは笑わなかった。代わりに重々しく口を開いた。


「巫女さま。私はこれから、もっとすごいことを申しますが、笑わないでくださいね」

「わ、わらいません。……なんでしょうか」
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