かぐわしい夜窓
歌うたいの朝は早い。


窓の外が少し白む頃、ゆるゆると起き出し、巫女として身なりを整える。

決まった礼服を着て、枕元に用意された一皿の果実を食べる。


朝餉は果実と決められている。


肉や魚は食べてはいけない。起きたばかりはおなかがあまり空いていないから、ちょうどよくて助かっている。


食べ終わる頃にお世話係さんがやってきて、髪を結い、腕にも顔にも化粧をし、仕上げにたくさんの飾りをつけてくれる。


腕輪、指輪、髪飾り、耳飾り、首飾り、足輪。肌にも服にも飾り、飾り、飾り。

飾りに飾られて一日おつとめをすると、頭も身体も重たくて疲れてしまうほど。


この非効率的な装いは、邪視除けなのだそうだ。


新築が落成したらどこかに傷をつけるように、大事な娘にもちょっと傷をつける。そうすることによって、周囲の妬みや恨みを回避する。


歌うたいは名誉で幸運なお役目だから、国中の娘の憧れである。


選ばれなかった娘やその娘の家族には、黒い気持ちを抱く者もいるらしい。

幸い、そんなひとにはまだ会っていないけれど。


随分と昔には、窮屈な靴を履かせてひとりでは歩けないようにしていたそうなのだけれど、足が変形してしまうということで廃れ、飾りものが増えたらしい。

ありがたい。一生歩けなくなるよりは、一時重くて歩きにくい方がまだマシである。
< 8 / 84 >

この作品をシェア

pagetop