Holy Night





一つの音を伸ばして
あたりが一気に静まった。
彼は大きく深呼吸して
目を開く


「!」

今度は勢いよく息を吸う
体をびくつかせて
目をそれ以上見開いた。



私は気付いたら
彼を見つめていた。

圧倒されたままの
ひどいままの表情で。


「……聴いてた?」

さすがに私は我に返ったらしい。
慌てて立ち上がったら
足の裏がしびれていた。
「え、えっと…」

少し不自然な姿勢
君の演奏は素晴らしかったと
激励をすることもできないので
とりあえず五、六回 手を合わせた。
巻いていたマフラーを直して
冷たい風に流された
前髪を元の位置に戻した。


「うるさいから注意しに来たか。ごめんね」

楽器を片付けながら
彼がかすかに口を緩めた。
テノールのやわらかい声


ちがう


って言うはずだった。
緊張していた。



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