無題




「遥ー、とうとう翔くんと別れちゃったワケー?」

10分休みの間に、晴菜話し掛けてきた。
甘いフルーツの匂いが私をまた包んだ。
机にうつぶせになった私は、だるさを一緒に吐き出すように答えた。

「うーんー。なんか流されるままって言うか、時間が来たっていうかー」
「そっかー、いい感じだったのにねー。」
「そう?」
「うんうん。だって翔1年生の頃ずっと遥のこと見てた見てた」
「ふーん」

別に心残りってわけじゃない。
今も、翔の気持ちがひしひしと伝わってくる。
「一之瀬 遥を好きだった」っていう過去形。
やっぱり涙は出てこない。
悲しくも無かった。
どうせ、失恋ってあるって分かってたし、
翔と付き合ってからもう3日で『どうせ別れるんだろうな』って思ってしまっていたし、
考えるだけで自分が最低な女って思ってどうもかわいそうになってくる。

「でも、遥が決めたんだし、あたしはいつでも遥のみーかーた!」
「うーん、かわいいなお前はー」
「えへへ」

そういえば、晴菜の笑顔ややさしさは翔と一緒。
甘ったるさを持っている。
男子を寄せ付ける蜜。ひがむ女子さえもいさせない香り。
晴菜は人間として完璧ともいえるほどだ。
実際、完璧な人間っていないんだろうけれど。
晴菜はまた私に話し掛けようと口を開いた瞬間に
始まりのチャイムがなって、
仕方なさそうな顔をして自分の席に戻っていった。


あっという間に3時限目か・・・自分でも時の流れの速さにびっくりした。
数学担当の野村先生は淡々と授業を進めていて、
私は上の空。
勝手に授業も終わってしまった。
1時限も上の空じゃあ、眠くなってくるのも当たり前で、
なんの壁もなく私は眠りの世界へ入っていった。
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