これはきっと、恋じゃない。
「うっわなにその少女漫画」
亜子ちゃんについさっきの出来事を話すと、開口一番のセリフがそれだった。
……たしかに冷静に考えると少女漫画だ。王道ド定番。食パンは咥えてなかったけど、イケメンと角でぶつかるとそこから恋愛が始まるやつである。……そんなことが現実で起こるなんて、誰が思うだろうか。
「……でもさ、大変だよね」
亜子ちゃんがしみじみとつぶやいた言葉に、向き直る。亜子ちゃんは少し笑うと「だってずっと笑ってなきゃいけないんだよ」と言った。
「……ああ」
そっか。
同級生でも同じ学校でも、それがきっかけでファンになるかもしれないから。さっきみたいに、ああやってイヤな顔ひとつせずに女の子たちの相手をするのも、ファンサービスの一つに過ぎない。
「青春らしいことも、なんにもできないだろうね」
「……うん」
だとしたら、王子くんはいつ等身大の高校生になれるんだろう。
「おーい、席着けー」
そんなことを考えていると、担任の佐藤先生が色々抱えて入ってきた。
「じゃ、またね」
「うん」
わたしも席に着く。予想通り、やっぱり一番前だった。