これはきっと、恋じゃない。
「……ほんと、ごめんね」
まぶたが少し重い。泣きすぎた。王子くんだって絶対困った。
「気にしなくていいよ、その気持ちは俺もよくわかるから」
「……うん」
横に置いていた、すっかりぬるくなった抹茶ラテにストローを刺す。
ふいに、好きだと言いそうになった。
いまこのまま言えば、きっとすっきりできると思う。
でも、それは言ってはいけない。
言うと、王子くんを困らせてしまうから。
「そういえば、単独コンサート決まったんだってね」
「え、なんで知ってるの?」
「副会長の子から聞いて」
そっか、と王子くんは少し笑って空を見上げた。
「今回はね、少し大きなキャパなんだ」
なんとなく、その言葉がわたしに向けられたものではないような気がした。王子くんはそのまま、空を見続けていた。
「夢が叶うかもしれない」
そう話す王子くんの横顔は、いつも以上に輝いていた。進むべき道を、しっかりと見つけたような。
「かっこいいね」
思わず口をついて出た。王子くんがわたしの方を向く。
「え……」
そんな言葉、言われ慣れているはずなのに、王子くんの顔はほんのりと赤くなっているような気がした。薄雲から覗く夕陽のせいかもしれないけれど。
「え、なに」
「はじめて、言われた」
「うそ! みんなに言われてるじゃん」
「ちがう。……逢沢さんに」
こんどはわたしが言葉を失う番だった。
なんでそんなこと、言うの。
「すごいねって言われたことはあったけど、かっこいいねはなかったから」
「……ああ」
そっか。
なんか、笑えてきた。
「どっちが言われてうれしい?」
「そりゃ、かっこいいだよ」
ぷいと前を向いた王子くんの耳が、赤かった。