これはきっと、恋じゃない。

「……ほんと、ごめんね」

 まぶたが少し重い。泣きすぎた。王子くんだって絶対困った。

「気にしなくていいよ、その気持ちは俺もよくわかるから」
「……うん」

 横に置いていた、すっかりぬるくなった抹茶ラテにストローを刺す。

 ふいに、好きだと言いそうになった。
 いまこのまま言えば、きっとすっきりできると思う。

 でも、それは言ってはいけない。
 言うと、王子くんを困らせてしまうから。

「そういえば、単独コンサート決まったんだってね」
「え、なんで知ってるの?」
「副会長の子から聞いて」

 そっか、と王子くんは少し笑って空を見上げた。

「今回はね、少し大きなキャパなんだ」

 なんとなく、その言葉がわたしに向けられたものではないような気がした。王子くんはそのまま、空を見続けていた。

「夢が叶うかもしれない」

 そう話す王子くんの横顔は、いつも以上に輝いていた。進むべき道を、しっかりと見つけたような。

「かっこいいね」

 思わず口をついて出た。王子くんがわたしの方を向く。

「え……」

 そんな言葉、言われ慣れているはずなのに、王子くんの顔はほんのりと赤くなっているような気がした。薄雲から覗く夕陽のせいかもしれないけれど。

「え、なに」
「はじめて、言われた」
「うそ! みんなに言われてるじゃん」
「ちがう。……逢沢さんに」

 こんどはわたしが言葉を失う番だった。
 なんでそんなこと、言うの。

「すごいねって言われたことはあったけど、かっこいいねはなかったから」
「……ああ」

 そっか。
 なんか、笑えてきた。

「どっちが言われてうれしい?」
「そりゃ、かっこいいだよ」

 ぷいと前を向いた王子くんの耳が、赤かった。
< 102 / 127 >

この作品をシェア

pagetop