これはきっと、恋じゃない。
その週末、本当に亜子ちゃんと王子遥灯鑑賞会をすることになった。
「えー、本日は王子遥灯鑑賞会にお越しくださり、誠にありがとうございます」
「どんな設定」
恭しくあいさつする亜子ちゃんは、「それでは!」と叫ぶとテレビのスイッチを入れた。
「プログラム1番、カルキスのバックを踊る王子遥灯です」
「それ亜子ちゃんが町田くん見たいだけじゃ……」
「黙りな」
亜子ちゃんはテレビの真前を陣取ると、ペンライトのスイッチを入れて、推しである町田宗介くんのメンバーカラーのオレンジにした。
「町田のビジュ大優勝!」
「町田くんしか目に入ってないじゃん……」
今日は王子遥灯鑑賞会のはずじゃ……。
亜子ちゃんがペンライトとうちわを振りながら見始める。さすがダンスに定評があるカルキスだ、魅了する踊りがすごい。
なにがなんだかよくわからないまま、町田くんしか知らないから目で追う。最初の数曲はカルキスしかいなかったけれど、途中からバックダンサーが出始めた。
そして、曲間のMC。
『今日はセレンディピティの5人がバックについてくれてます!』
町田くんからの紹介で、5人が前に出る。
「あ、千世! 王子くんよ」
「ほんとだ。……なんか若い」
「去年のだからね、結成1年くらいかな」
ということは高校1年生のころか。
わたしがまったく知らない王子くんだ。
『みなさんこんにちは! 名前からしてキラキラアイドル! セレピの最年少センターの王子遥灯です!』
名乗ると客席から『キャー!』と黄色い声援があがる。王子くんは観客席に大きく手を振り、それからモニター用のカメラにも手を振ってウインクした。そしてまた歓声。
「すご……」
大人気なんだな、このときから。
まだこのときは同じ学校でもなかった。そこにいるのはまったく知らない王子くん。
その1年後、同じクラスで隣の席になるなんて思ってもみなかった。
どんどんとコンサートは進んでいく。目の前で踊るカルキスよりも、やっぱり目が王子くんを追っていく。
決してメインではないけれど、目を引くくらい一生懸命笑顔で踊る王子くんを見るたび、胸がぎゅっとした。
かっこいい。
このステージにいるなかで、一番かっこいい。
……それでもやっぱり一番好きなのは、ふつうの高校生の王子くんだ。
真剣に体力テストを受けるときのことも、テストがうまくできたら喜んでみんなと話しているところも。授業中に手紙交換して、絵が下手って笑う王子くんも。
「あ、そうだ、そこにある雑誌読んでいいよ」
亜子ちゃんが示す場所を見ると、雑誌が山積みになっていた。表紙は大体カルキスのものが多い。デビュー前なのに雑誌の表紙なんて、すごい。
「これ?」
「そう。ちょいちょい王子くん載ってるのよ」
そう言いながら、亜子ちゃんは一番上の雑誌を渡してくれる。表紙には町田くんがいて、いつもと違ってオールバックで前髪が少し落ちている濡れ髪だった。
「町田ビジュ選手権特別賞受賞! めでたいね!」
「はいはい」
謎の選手権を開催して受賞式をする亜子ちゃんを適当にあしらって、雑誌を開く。大学生向けの雑誌らしく、通学コーデが載っている。
それをなんとなく読んでいると、王子くんの特集ページがあった。